毎週 木曜日発行!!  平成13年 11月1日創刊

週刊 上原直彦
「浮世真中」が本になりました!
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週刊上原直彦「浮世真ん中」が本になりました!
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2006年 8月31日
連載 エッセイ
      「浮世真ん中」(252)

*<出産祝いに・バサナイ木>

 「いとこMに初孫ができたそうだ。なにかお祝いしなければなるまい」
 「それはまあッ、おめでたいこと。お祝い・・・・。ベビー用品は有り余ってもいけないし、最近は品物よりも現金が喜んでもらえるらしいしネ。先方の希望を聞いて決めましょう」
 少子化社会の昨今。身近に新生児誕生の知らせを聞くと、これはまさに(朗報)で、心和むものがある。

 出産祝いには実用的な品物、記念品、縁起物といろいろあるが、大正時代後期から昭和初期まで実芭蕉<ミーバサー>の苗を持って訪問し、屋敷内に植えてあげる(祝い方)があった。新築祝いも同様。このことは、琉歌にも詠まれている。

 ♪待たす実芭蕉 実ぬなる如に 君が広がいん かにしあらな
<むたすミーバサーぬ ナイぬなるぐとぅに キミがふぃるがいん かにしあらな>
 歌意=実芭蕉の苗を贈ります。庭に植えてさしあげましょう。それがすくすくと成長して、いく房もの実をつけるが如く、貴方さま一家も子孫繁栄・末広がりでありますように。

 沖縄には、3種の芭蕉がある。
 熱帯アジアやアフリカなどを原産地とする芭蕉は、東南アジア・中国を経由して移入されたとされる。まず、繊維を取るための苧芭蕉<WUIバサー。糸芭蕉>。果物・食用としての実芭蕉。そして、近世になって生け花や鑑賞用の花芭蕉が栽培されるようになったようだ。
 苧芭蕉からは繊維をとり・晒し・紡ぎ・糸にしてヤーマ<機・はた>に掛けて布にする。つまり、沖縄特産の芭蕉布<バサー ヌヌ>ができ、仕立てたものを芭蕉着物<バサー ジン>と称する。きめ細やか織り、素地を生かした白地や黒染め等は士族の礼服。黄染め・青染めは晴れ着。他に紺染めなどは主に平民が着用。また、荒い繊維で織られたものは、荒芭蕉<あら バサー>でいささ粗布。百姓着物<ひゃくしょう じん>である。
 実芭蕉には当然、食用のバナナがなる。バナナの沖縄語はバサナイ。ミカンや山モモなど、木になるものを(ナイムン)と一括しているが、実芭蕉を「バサナイ木=ぎー」と称し[木]扱いをしている。それは芭蕉が2〜3メートルにも成長、1〜2メートルの大きく幅のある葉を四方に広げるところから、大きさで(木の仲間)にしたと思われる。

 いま、市場に出まわっているバナナは、ほとんど台湾産のようだが、商品にはならなくても、個人が栽培していて、時たま口にする「島バサナイ」は、小ぶりながらも「うちなぁ かじゃ=沖縄的香り」がして美味。胃の腑がホッとする。
 出産祝いに実芭蕉の苗を贈る。
 それと意味合いを同じくして、出産祝いに作る料理のひとつに「ムジぬ汁」がある。ムジは田芋「ターンム」の茎のこと。豆腐や豚肉とともに味噌仕立てにした汁物が隣近所にもふるまわれる。丁寧な家庭では、いまでも作る料理だ。
 ムジぬ汁を出産祝い料理にしたのは、田芋は1株に10〜20個と数珠つながりで芋をつける。このことから、これまた子孫繁栄の(縁起もの)としたのである。
 ことのついでに。
 子はもうけたものの母乳の出が思わしくない場合、青いパパイアを細切りにして豚足とともに煮て食するといいとされる。また、パパイアとトーフヌカシー<豆腐の粕。おからのこと>とスルルグァー<きびなご。小魚>の味噌汁も母乳の出をよくする。
 パパイアは農家ならずとも、そこいらに有り、青いうちは野菜、橙色に熟すると果物として年中、食することができる。余談ながらパパイアの沖縄名は「パパヤー」もしくは「パーパーヤー」である。

 さて。
 いとこMの初孫誕生祝い。故事にならってバサナイ木の苗を贈ろうか。とは言ってもマンション住まいでは植える庭がない。それともパーパーヤーの青物・果物を持って行こうか。いやいや、いまどきのヤングママが母乳を与えるかどうか。(子だくさん)を望んでいるか。故事を引き出して嫌われてはたまらない。
 それなりの額の現金にするか。

 次号は2006年9月7日発刊です!

2006年8月分
週刊上原直彦(252)<出産祝いに・バサナイ木>
週刊上原直彦(251)<夢のある女性たち>
週刊上原直彦(250)<時を映して・切手>
週刊上原直彦(249)<ひゃーッ!ゆいッ!奥武島>
週刊上原直彦(248)<ブン切り・すんがー節>

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