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| 2006年 6月29日 連載 エッセイ 「浮世真ん中」(243) *<真6月の夏・オキナワの夏> 鎖に繋がれ自由を奪われた飼い犬は、長梅雨によってストレスがたまり、日ごろ声を掛けてもらっている隣家の人にまで吠えたてていた。 しかし6月21日、沖縄地方の梅雨が明けて以来、テレビの気象情報の1週間予報欄(沖縄)には、太陽マークがずらり並び、さすがの犬も気力体力を失ったか、あやしげな人物が徘徊しても、片目すら開けず萎えきっている。 「まふっくぁ 犬<いん>ぬん 外歩っち<ふか あっち>や さん」という俗語は、まさにこの暑さを言い当てている。 意訳すると「太陽が照りつける夏の真昼間は、犬でさえ外回りはしない」ということになる。少年のころ、真6月<まるくぐぁち>、6月太陽<るくぐぁち てぃーだ>を敵にまわして海や山に遊び、汗だくのまま帰宅すると(犬でさえ真昼の太陽を避けて木陰を求めて昼寝するのに、お前という子は、もうっ!)と、おふくろは呆れ顔でこの俗語を口にしていたものだ。 ![]() 真6月・6月太陽。 いずれも、6月<陰暦>の太陽は「1番暑い」と、警告している。長梅雨の間にも何日かの梅雨寒があり、冬を越し春、そして初夏。長袖と半袖をその日に合わせて着用していた沖縄人の身体。いきなり30度の真夏日の連続になると、ことさら昨今の暑さは耐えがたい。つまり、長袖の世話になっていた身体が6月太陽に慣れていない分、暑さが身にこたえるのである。しかし、現実的には6月太陽を恐れていては、沖縄の夏を生きのびることはできない。7月<陰暦>になったらなったで「七夕太陽=たなばた てぃーだ」「7月太陽=しちぐぁち てぃーだ。この場合の7月はお盆をさす」と言い、年間で「1番暑い」とされる。言い換えると(1番暑い)が、このあと3ヵ月余続くのが沖縄の夏なのである。 茹だる・うだるような暑さと大和口では表現するが、沖縄では「ねぇーゐん=萎える」と言い、よほど上手な夏の過ごし方を心得なければ、言葉通り気力・体力ともに萎えてしまう。 こうした真6月だから、育児に関する俗語が生まれる。 「赤子ぁ6月ん雪降ゐん=あかぁんぐぁ るくぐぁちにん ゆち ふゐん」 大人にとっては、茹だる・うだる・萎えるような暑さでも身ぐるみ脱げばなんとかしのげるが、赤子はそうはいかない。この世の暑さ寒さをまだ知らないからだ。したがって、赤子にとっては真6月も雪の降る日のような体感温度。大人同様、裸もしくは薄着をさせてはならないと説いている。いまどきのように、親が暑いからといって冷房をガンガン効かせた部屋に寝かせては、未熟な身体は持たないであろうことは容易に分かることだ。これは初産の若い母親への助言として伝えられる俗語だが、いまでも十分通用すると思うがどうだろう。 もちろん、沖縄には雪は降らない。昔びとは、肌を刺し指が千切れるような冬の大和のはなしを伝え聞いて(雪)なる言葉を引用したと考えられる。 また、季節とは関係ないが育児に関する俗語をいまひとつ。 「赤子ぁ毬ぬ持ち扱けぇ=まぁい ぬ むち あちけぇ」 風俗史研究家崎間麗進先生は、次のように話して下さった。 「Wカップとやらで日本中が熱病におかされているが、蹴ったり踏んだりぶつけたり!あのサッカーボールのように赤子を扱っては、赤子は命を落としてしまうのは当然。赤子は手荒く扱ってはいけないということだ。やさしい心配りをすれば、幼児は心身共に健やかに育つ道理を説いているんだよ。毬に例えたのは、昔は遊び道具とはいえども毬は高価なモノで、庶民の手には入らなかったからだ」 子持ちは、持ち扱けぇ肝要ということだろう。 真6月。 日本各地の梅雨がテレビで報じられている。豪雨にみまわれ被害続出。人命が失われている。そのニュースや番組の合間に流れるコマーシャルの映像は、焼き芋や桜から海、入道雲、渓流などに変わり、商品も日焼け防止の化粧品、殺虫剤、蚊取り線香、各種冷房機器、ビール、そうめん、各地の旬の特産品、飲料水等々が繰り返し画面を賑わせている。関東、北陸の梅雨明けと同時にやってくる(ニッポンの夏)を当て込んでのそれである。 すでに梅雨のひと雫さえ見あたらなくなった沖縄。蚊取り線香のコマーシャル風に言えばこうなる。 「真6月の夏、オキナワの夏」 ![]() ![]() |
| 2006年6月分 |
| 週刊上原直彦(243)<真6月の夏・オキナワの夏> |
| 週刊上原直彦(242)<梅雨明け・子育てのとき> |
| 週刊上原直彦(241)<梅雨時の風景> |
| 週刊上原直彦(240)<狂歌はいかが> |
| 週刊上原直彦(239)<あめ・アメ・雨> |