毎週 木曜日発行!!  平成13年 11月1日創刊

週刊 上原直彦
「浮世真中」が本になりました!
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週刊上原直彦「浮世真ん中」が本になりました!
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2006年 4月20日
連載 エッセイ
      「浮世真ん中」(234)

*<清明・シーミーのころ>

 「路上駐車の車。交通の妨げになっています。速やかに移動して下さい。移動をお願いします」
 ミニパトカーが巡回するものの、識名霊園中通りの車は、いっこうに動く気配がない。もしこれが街中であったら、レッカー車出動になるところだ。
 識名霊園墓地は、那覇市郊外<地名真地=まあぢ>にあって、世界遺産に登録されている琉球王家ゆかりの庭園「識名園」と、隣り合わせている。南部一帯を一望する高台。行政の都市計画に沿って、那覇市の人々の墓所はここに集中、1000基は下るまい。その中通は存外に道幅が狭く、片側に駐車の列ができると、たちまち渋滞する。日ごろはそれほどの交通量はないが、年中行事の1つである墓前祭がひと月ほどつづく4月から5月の連休にかけては、パトカーが出動するほどの混雑が例年見られる。
 (速やかに移動して下さい)のちょっと命令口調も、そのあとには(移動をお願いします)と、やさしくなり、心なしかトーンダウンしている。不法と言え、駐車の目的が墓前祭であってみれば、道路交通法違反を強行に適応するわけにもいかないのだ。おまわりさんちも、墓前祭はするのだから・・・・。
 墓前祭。つまり、シーミー<清明祭>である。
 今年のシーミーは、4月5日が入り。この日から2週間がその節<せつ。しち>だ。
 清明=24節季の1つ。4月5日ごろ。萌えだした草木の芽がはっきりとしてくる。辺りが清く明るくなるころ。
と、辞書にあるように、野辺には自生の白ユリが咲きはじめる。

 シーミーの時期になると、本家から指令があって拳行の日時が告げられる。分家の者は万難を排し、先祖代々あるいは新規の墓所に参集して、清く明るくなった春の日の1日・半日を過ごすのである。
 わが家は4月23日であった。
 故事にならった重箱詰めの馳走はじめ、酒も用意された。しかし、今では重箱詰めは墓前に供える形ばかりにとどまり、あとはフライドチキンやビール、ソフトドリンクと、若者や子どもたちの好むモノが主流になっている。わが家の場合、10家族40人余りが集まった。
 一般的にはシーミー。丁寧語ではウシーミー<御清明>という。その目的は、先祖供養はもちろんだが、兄弟縁者の年に1度の顔合わせにあり、先祖神に(おかげさまで子孫繁栄、これほどの広がりをみせています)と報告する場でもある。したがって婿も嫁も、それぞれの子を連れて来、一同に年齢や名前を紹介して、縁者であることの絆を深める。
 いまひとつ、シーミーのよさは、長老が一族のルーツを語り、また、年中行事等の故事を解き聞かせることにある。さらには、それぞれが今、どういう暮らし向き、生き方をしているのか。子どもたちの学業のほどはどうかなどと、消息を確かめ合う場であること。
 シーミーの起源は238年を逆上る。
 第2尚氏王統14代尚穆王<しょうぼくおう。1739〜1794。乾隆4〜59>のころの文献に「2月12日。始メテ毎年清明ノ節、上、玉陵ニ拝シテ奉祭スルコトヲサダム」とあって、年中行事の1つになった。(上<かみ。お上>玉陵<たま うどぅん>に拝して)とあるように、王家が第2尚氏王統歴代の墓陵・玉陵を拝したことに始まった。これが首里氏族を中心に普及、時代とともに地方、一般に広まったものである。


伊是名村 公事清明

 シーミーには、老若男女が集まる。そこで青年たちは墓地めぐりをしたそうな。他家のシーミーを見て回り(どこそこの家には美人がいる。年ごろの女学生がいる)なぞと、覗き見・品定め(遊び)としたのだ。しかし、いまどきの青年たちはそれをしない。街中で十分、間に合っているのだろう。

 かつては、シーミーの拳行は曜日を選ばなかったが、いまは勤め人が多くなったせいで土曜日・日曜日に集中している。今年も5月の連休まで墓所は賑わう。何時のころからか時代遅れのシーミーを「流りシーミー」と称しているが、そこには暦ではなく自分たちの都合で時期を逸したことに対する(申し訳)の念が感じられて微笑ましい。

 シーミーの節にもかかわらず、車の移動を呼びかけていたおまわりさんちのシーミーは何時だろう。職務優先に徹するのもいいが制服を脱ぎ、ゆっくりと縁者団らんの春の日を楽しんでいただきたい。
 つぎに墓所を訪れるのは旧盆入りの日。今年は8月6日・日曜日にあたる。



 次号は2006年5月4日発刊です!

2006年4月分
週刊上原直彦(234)<清明・シーミーのころ>
週刊上原直彦(233)<遊び=あしび>
週刊上原直彦(232)<かがみよ、カガミよ、鏡さん>
週刊上原直彦(231)<温泉・風呂屋・銭湯ばなし>

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