毎週 木曜日発行!!  平成13年 11月1日創刊

週刊 上原直彦
「浮世真中」が本になりました!
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週刊上原直彦「浮世真ん中」が本になりました!
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2005年 12月29日
連載 エッセイ
      「浮世真ん中」(217)

<ダイエット太り時代・缶詰太り時代>

 忘年会の帰りらしい御婦人4人。喫茶店の四角いテーブルが小さく見えるほど、ずっしりと占拠して語り合っている。前にしているのはコーヒー、紅茶。それに、それぞれの好みによるケーキ。
 「今日の焼肉は硬かったわネ。タレもイマイチだった」
 「サラダ類もバリエーションに欠けてさ。やはり、この時期は大量生産するから、雑になるのかしらネ」
 口にしたらしい数々の料理名をひとつひとつあげて品評しているが、その顔は皆、血色がよく満ち足りている。
 会話はダイエットに及ぶ。
 「年末年始。忘年会、同期会。正月三が日、年始回り、新年会。それに戌年は29日が旧正月。つまり、ソーグァチ・ターチャー<新旧正月が重なる月>だし、食べる機会がひと月つづくわヨ。イヤねぇ」
 「おたがいのダイエットは、2月からということになりそう。イヤだワ」
 馳走づくめの年越し、年明けを「イヤねぇ」「イヤだワ」で承認して、あとは「オホホッ・オホホッ」と、満足気な笑い声で喫茶店会議を盛り上げていた。

 「石川小唄」一名「石川数え唄」の8節は、次のように歌われる。
 ♪8つとせのエー 痩せたお方はあんまり居ない 居ないはずだよ缶詰太り 娘のクンダは太る一方 鏡水大根 素足で逃げるじゃないかいナ

 戦前は戸数350戸、人口約1800。美里村<現・沖縄市>の1字だった石川に、昭和20年米軍政府は、諮詢委員会を設立した。つまり、戦後の政治、経済、文化の中心都市が誕生したのである。人口も3万人を越え、その内の3千人余が各地の米軍基地の、俗に言う軍作業に従事。美里村字石川は「市」に昇格した。現在は、今年4月、具志川市、勝連町、与那城町と合併「うるま市」になった。

 当時の石川市は、軍作業員が上げる「戦果=軍用物資無断取得」のおかげで、沖縄一豊な食料事情にあった。
 (♪痩せたお方はあんまり居ない 居ないはずだよ缶詰太り)には、こうした背景があったのである。
 戦果による体力回復。肥満は(しあわせのシンボル)であった。痩せ細っていた娘たちのクンダ<ふくらはぎ>は、みるみる立派になり、県下1の生産地とされた小禄村鏡水<おろくそん かがみず。通称カガンジ。現那覇市>のカガンジ・デークニ<大根>も、恐れをなして逃げ出すほどであった。
 「石川小唄」の作者は、歯科医師・故小那覇全孝。市内で開業する一方、芸名舞天<ぶーてん>を名乗り、流行り歌や風刺歌を創作、自らサンシンに乗せて歌い、失意の人々を慰問。後に舞天の話芸、演芸を継承した故照屋林助、女性だけの劇団「乙姫」を育て、石川出身の4姉妹に「フォーシスターズ」なるユニットを組ませ、民謡界に送りだすなど、戦後の芸能復帰に尽くした功績は、いまなお評価が高い。
 また、復員祝賀会、敬老会など諸々の催しの司会を専門化したのも、ウナファ・ブーテン。
 「シカ イシャ<歯科医者>が、シカイシャ<司会者>をつとめるのは、診療科目のひとつ」
 これは、宴の前ふりに使った「舞天のセリフ」と、後に照屋林助は語っていた。

小那覇全孝氏

 昭和20年10月30日付。
 捕虜収容所生活をしていた人々は、ようやく解放され、それぞれの出身地への帰還が許された。そして、各地で(生きている歓び)を確認し合う祝宴が催された。
 テント張りの宴席に出るのは、米軍配給のジャムや果物で造った即席の酒。それをコカコーラの瓶を真ん中から切ったコップで飲み、メリケン粉を使った揚げ物やソーセイジ。6斤缶入りのアイスクリーム粉と卵の黄身の粉で作った菓子。それにコンビーフ等々を鉄製の軍用食器メスキットに盛って食した。仮設舞台では、心得のある人たちが登場して歌舞を披露する。そこで活躍したモノがある。さまざまな野戦食料が入っていた缶詰をチーガ<共鳴盤>に、パラシュートの布数枚や山羊、ウサギなどの皮を張りにし、細い電線やこれまたパラシュートの糸を絃にしたサンシン。いわゆる「カンカラーさんしん」である。カンカラーとは、大小問わず空缶の総称。即製サンシンには、鉄兜や一升マス、大きめの弁当箱を共鳴盤にしたものもあった。因みに、6斤缶は井戸の水を汲む釣瓶、加工して炊飯器、湯沸かし、食器、灰皿にも利用された。

、「住民演芸会」昭和21年(1946)頃

 あれから・・・・・。
 61年目の春を迎える。暮れから正月休みを過ごし、仕事始めまでには、件の御婦人たちはいざ知らず、私は2キロほど太ることになる。


   ※愛読ありがとうございます。戌年もよろしく<筆者及びスタッフ>

 次号は2006年1月5日発刊です!

2005年12月分
週刊上原直彦(217)<ダイエット太り時代・缶詰太り時代>
週刊上原直彦(216)<正月ダンパチ・クリスマスダンパチ>
週刊上原直彦(215)<すまないッ・おふくろ>
週刊上原直彦(214)<とにかく、おめでとう>
週刊上原直彦(213)<動物・格闘技物語>

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