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週刊 上原直彦
「浮世真中」が本になりました!
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週刊上原直彦「浮世真ん中」が本になりました!
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2005年 11月24日
連載 エッセイ
      「浮世真ん中」(212)

<温まろう・フィージャー汁>

 「伊平屋島の友人がフィージャーシシ<山羊肉>をおくってきてくれた。クスイしにおいでよ。クーガもあるよ」
 役者仲嶺真永さんから誘いがあった。

 山羊肉は、よくゆがいて柔らかくし、塩味の汁にする。箸をつける直前にフーチバー<よもぎ>や生姜、あるいはコーレーグス<高麗薬・唐がらし>をやくみとして入れる。もちろん、好みによる。通になると泡盛をたらし、できるだけ熱コーコー<舌を焼くほどの熱さ>を食する。
 山羊の屠殺は、皮毛を火で焼いてからさばく。刺し身にする肉は皮つきのまま切り、酢醤油に生姜で食べる。山羊汁・山羊刺し身は、まさに、フィージャーグスイ<山羊薬>。古くから栄養補給・クンチ<根気>をつけるものとして珍重されてきた。
 クーガは、卵のことであるが、山羊が卵を産むわけはない。ありていに言えば「睾丸」のこと。したがって、雄山羊一頭をさばけばクーガは2個しかなく、普通は飼い主、もしくは、さばいた人が(食する権利)を有することになっている。山羊のそれも人間同様に柔らかく貴重かつ珍味。その上、精力増進・効果てきめんとあって「フィージャー・クーガ」と聞いただけで、中年男は目の色を変える。しかし、県下各地にある山羊料理店、どこにでもあるというものではない。どうしても体が要求するならば、2、3週間前に予約しなければならないだろう。
 山羊は、琉球が歴史時代になって交易をはじめたころ、中国や東南アジアから入ってきたとされる。はじめは乳用として飼育。後に肉用・毛用としても人々の暮らしに貢献してきた。実際、山羊には捨てるところがなく、肉にはもちろん、内臓も美味。角までがサンシンを弾くチミ<爪。ばち>として、いまでも用いられている。
 在来種は小型。野草で飼育することができるのも、農家にとっては有効。このことが増殖、普及に拍車をかけたとも言えよう。昭和11年<1936>には、15万頭余が飼育されていたと記録にある。


 シークヮーサーの里として知られる名護市勝山区は、山羊料理でも有名だ。四方、山に囲まれて、山羊を飼うには条件が揃っている。それがまた、シークヮーサー栽培とうまくかみ合っている。
 勝山を訪ねると山々の大地に、ひと目でそれと分かるシークヮーサー畑を見ることができる。さらに気をつけてみると、その畑の中に幾つもの山羊小屋があり、昼間はシークヮーサーの木の下の周辺で山羊が草をはんでいる。山羊は畑の草を自らの食欲で除き、その場に排泄をする。それはシークヮーサーにとっては天然の栄養となって、豊な実りに繁るのである。
 勝山はまた、フィージャーで名をあげた。彼らに感謝しなければならない。そこで(人々に、薬用、動物性蛋白質を提供するために命を捧げた山羊たち)の魂を鎮めるため、羊魂碑設立委員会を組織。昭和37年<1962>12月8日「羊魂碑」を建立した。碑の表に「羊魂碑」の3文字の下に「大いに賞味し、つつしんで弔う」の碑文が刻まれ、裏には、牧志朝三郎の「三昧を知りて迷える山羊路」の句が見える。
 「羊魂碑建立に積極的だった数人は、人一倍、山羊料理を食べた方々。山羊に対する罪滅ぼしもあったと思うよ。でも、除幕式には600人余が参列した。もちろん、ヒィージャー汁に舌鼓を打ちながらの式典だった」
 現在、勝山農村交流センター1階の山羊料理店「ヒージャー屋」で聞いた地元の人のコメントである。


 風狂の歌者・故嘉手刈林昌は、フィージャージョーグ<上戸>であった。彼は真顔で言っていた。
 「山羊汁はチュマカイ<1椀>ではなく、シェーシン<おかわり・2椀以上>して食べなければならない。何故?昔からの習わしだ」
 しかし、そんな慣例はほかでは聞かない。察するに、好きな山羊汁を十分腹に納めるための林昌っちー<大兄>の造語と思われる。彼は得意の遊びうた「ナークニー」に乗せてよく歌っていた。
 ♪馬やムゲーはきてぃ 牛や鼻ふがち 哀りてやべーべー小 真首くんち
 意訳=馬はムゲー<くつわ>をし、牛には鼻に縄。それでも小屋を出て働く(自由)がある。それにひきかえ、哀れなのはべーべー小<山羊・幼児語>。首をまともに縄で括られて小屋暮らし・・・・。

 昨日今日の気温22、3度。冬らしくなってきた。
 フィージャー刺し身で泡盛一杯。クーガで精力をつけ、汁2椀で温まろう。

 次号は2005年12月1日発刊です!

2005年11月分
週刊上原直彦(212)<温まろう・フィージャー汁>
週刊上原直彦(211)<シークヮーサーの里・勝山>
週刊上原直彦(210)<10月夏小のころ>
週刊上原直彦(209)<芸術の秋・絵画>

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