毎週 木曜日発行!!  平成13年 11月1日創刊
週刊 上原直彦 「浮世真中」が本になりました!
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週刊上原直彦「浮世真ん中」が本になりました!
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2005年 7月28日
連載 エッセイ
      「浮世真ん中」(195)

<フィーフィーの季節>

 沖縄は、フィーフィーの季節である。
 灼熱の太陽が西に姿を隠した後も、地熱が日中の名残を忘れていない夜9時、10時頃から、各地の公民館や木々に囲まれた村屋<むらやぁ=諸行事をする集落共有の施設>前広場には、30人40人の男女若者が集まる。エイサーの稽古である。
 今年のお盆は8月17日。3日間行われる7月<しちぐぁち。お盆のこと>行事の初日は、先祖霊を迎える御迎え<ウンケェ>。中日をナカヌヒ。送りの日を<御送い。ウークイ>として、先祖霊をもてなし、慰める盆祭り。そのメインをつとめるのがエイサーなのだ。本来は念仏踊りであるが、演じられる歌舞の随所に「エイサー!エイサー」の掛け声が入るところから、通称の「エイサー」の方が「念仏踊り」の名を越えている。
 エイサーの歌三絃、大小の太鼓とともに、重要な囃子がフィーフィーだ。指笛、口笛の総称であるが、その音が名称になっている。
 いま少し、フィーフィーを分類してみる。
 フィーフィーとは、一般的に指笛のこと。イービフィーフィーとも言う。イービは指。指を使わずふく「口笛」と区別するために言う、わりに新しい言葉のようだ。単にフィーフィーとは言っても、
(1) 小指を曲げ、手の甲側からくわえてる型。または逆に手のひら側から口にする型。

(2) 片手親指と人さし指をくわえる型。

(3) 両人さし指、もしくは両小指で成す型。

 等々、さまざまである。

 これらは音量からして、通信の役割も果たしてきた。視界には入っているが、声が届かない場合、まずは、フィーフィーで注意をひく。例えば海などで、知らずに深みにはまりそうな人に危険を告げるとき、効を奏する。その音は、空気を切って遠くまで届く。そして、群衆への呼びかけの合図、歓喜を共有する場合、群舞をリードする指揮をもフィーフィーはやってのける。いまでも、選挙の当選が確定すると当選者の事務所では、支持者の間から歓喜と同時にフィーフィーが鳴り、三絃はなくても手拍子に合わせたカチャーシー<即興舞>が起きる。もうすぐ開幕する高校野球夏の甲子園大会でも、沖縄代表の試合になると、スタンドには、フィーフィーが飛び交う。反戦・平和集会などで聞く複数のそれは、同意を表す指笛である。
 達者な人になると、指など使わず、舌を半丸めにして、前歯裏に当てて指笛ほどの音を出すことができる。
 フィーフィー<指笛>に対して、口笛をフィーフィー小<ぐぁ>と称している。気分がいいとき、ついつい出るフィーフィー小。小学生のころ、突然、たくまずして口笛がふけたときの喜び。「感動」という感情をはじめて覚えた一瞬であった。
 昔、口笛は夜、好きな人を家から誘い出すにも活用された。指笛は、あまりにも音が大きく、親兄弟や近所の人々、いや、村中を起こしかねない。恋のフィーフィー小は、あくまでも短く、音を抑えて、ひめやかに密やかにふくにかぎる。そのためには、いまひとつ「シーシー小」を覚えるといい。
 シーシー小は、上下前歯を軽く合わせ、口を横に開けてふく。にっこり笑う要領。フィーでもなく、ピーでもなく、シ音が強調されるところから、名付けられている。

 フィーフィー、フィーフィー小なる言葉は、日常会話にも用いられる。
 例えば、宝くじに当たったら「フィーフィーふいて快哉」を表し、あとは左団扇「フィーフィー小をふいて暮らせる」などと言うふうに。
 フィーフィー小をふきながら出来る仕事は、楽なそれを意味している。
 しかし、夜、子どもがフィーフィー小、シーシー小をふくと「ユーリー・マジムン=幽霊・もののけ」が現れると言われる。子どものころは、それを信じて早寝をしたものだ。
 フィーフィー小をふくほど気分がよく、いつまでも起きている児童に対する親たちの牽制だったのだろう。
 また、猛暑の中、外に向かってフィーフィー小、シーシー小をふくと、かすかに涼風<シダカジ>を呼ぶことができる。これも、理屈を言えば、口笛を吹くことで体内の熱気を吐き、外気を吸って涼を感じるからだろう。いやいや、小賢しい理屈は捨てて、やってみるといい。ほんとうに涼しくなるのだから・・・・・。
 ともかく、フィーフィーもフィーフィー小もシーシー小も、人が人を信じあえる世の中でこそ成せる技。それらは、平和のシンボルなのかも知れない。
 沖縄は、フィーフィーの季節である。

 次号は2005年8月4日発刊です!

2005年7月分
週刊上原直彦(195)<フィーフィーの季節>
週刊上原直彦(194)<書物箱・すむちばく>
週刊上原直彦(193)<ちゃっち押し込み>
週刊上原直彦(192)<少年の戦争>

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