毎週 木曜日発行!!  平成13年 11月1日創刊
週刊 上原直彦 「浮世真中」が本になりました!
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2005年 2月24日
連載 エッセイ
      「浮世真ん中」(173)

*<地方語たち>

 那覇空港駅からモノレールに乗る。
 終着の首里駅まで15駅。全長12.9キロ。所要時間27分。始発は朝6時、最終は夜11時30分。2両編成で165人収容。片道料金290円である。
 那覇空港駅の「谷茶前節=たんちゃめー」に始まり、各駅停車前には、案内アナウンスと共に、木琴が奏でる沖縄メロディーが10秒ほど車内やホームに流れる。 10番目の安里駅では「安里屋ゆんた」が到着を告げる。それに合わせて本土からの旅人は、目を輝かせて鼻唄で応える。いい風景だ。しかし、
 「安里屋ゆんたは八重山の歌なのに、那覇市の安里駅に採用されているのは、単なる語呂あわせかな」
 その通りである。
 安里<あさと>は、安里八幡宮を得て栄えた地名。片や安里屋<あさどうや>は、八重山・竹富島に実在した一家の屋号だが、歌が全国的に知られるようになった今、旅人が分かりやすいようにと、採用されたと聞く。
 この歌には、2揚り調子と本調子の2通りの節がある。もちろん、八重山方言で歌われるが、昭和9年<1934年>、「沖縄民謡を全国に紹介しよう」と、コロムビアレコードが企画。共通語の歌詞が付けられた。それが流行りの「安里屋ゆんた」である。

 ところで。
 「安里屋ゆんた」のハヤシ「またハーリぬチンダラ カヌシャマよ」について、語意の問い合わせが多く寄せられるようになった。中には、マタは日・陽。ハリは目を意味するインドネシア語を語源としているという新説、いや、珍説が県内外を飛び交い、地元の人たちの失笑をかっている。
 明確に言って「マタ・ハリ」では、八重山語にならない。「また ハーリぬチンダラ カヌシャマよ」で、言葉は完成する。
 「また」でひとつ。「ハリ。ハーリ」もひとつ。共通しているのは、いずれも、ハヤシ言葉として用いられているということ。つまり、歌唱のリズムやテンポ、さらには「ゆんた=八重山語で<うた>を意味する歌謡形態のひとつ」に、勢いをつけるための強調語であり、接頭語なのだ。したがって「また」と「ハリ」を分断しては、言葉にならないのである。直訳すれば「また ハーリぬチンダラ カヌシャマよ」は、「さあさあ(はやしたてよっ!)、心寄せ合った愛しい人たちよ」ということになる。
 単語的には、チンダラ<ツンダラ。ツィンダラとも発音する>は、切ない心情を表す。「悲しい」も意味するが「安里屋ゆんた」の場合、喜びも悲しみも連帯して生きている愛しい人たちに向かって発する掛け詞になっている。
 カヌシャマは、愛しい人の意。さらに言えば「カヌシャ・カナシャ」の単語で「よ」は末尾語。同じ意味合いの言葉を言い換えをし、重ねて詠むのが、八重山歌謡の特徴でもある。
 マタ<日。陽>、ハリ<目>を意味するインドネシア語が「琉球語化して、ハヤシ言葉になった」とする御高説は、いささか強引に過ぎると言わなければならない。
 「また」や「ハリ・ハーリー」をハヤシ言葉とする節歌は、通常「古典音楽」と言われる宮廷音楽をはじめ、各地の庶民歌謡<島うた>には多い。八重山歌謡には殊に多く「むんぐるくばーさ」「くば山越地」などにも、例を見ることができる。
 世界には、多くの民族がいる。文字を持たない民族はあっても、音楽を持たない民族はいないだろう。したがって、それぞれの言語があれば、発音は同じでも、意味まで同一であるとは限らない。共通語では、ごく普通に使われ、人名にもある言葉でも、沖縄方言では、大きな声では言えないそれもある。もっとも、その異なりが、地方語の妙味ともいえる。

 かって、悲しい場面や予期しない事に出くわした際に発する「アキサミよ」「アキサミようなぁ」と言う感嘆詞を、
「秋雨のこと。沖縄では、しとしと降りの秋雨に打たれるような不快なめに会うと、アキサミよと、声を発する。アキサミは、アキサメの転語である」
 そうエッセイに書いた大和人がいらっしゃった。笑い話にもならなかった。
 「アキサミよ」は「あら!まあっ」程度にも使うし、切羽詰まって戸惑い、成す術を知らない場合に発する感嘆詞なのだ。
 言葉を統一しては味気ない。地方人は地方語で語り合うときに、魂の自由を得る。発音や意味を知るのに、多少の遠回りはするが、時間をかけて理解し合い「語らい」を深め、自由でありたい。

 次号は2005年3月3日発刊です!


2005年2月分
週刊上原直彦(173)<地方語たち>
週刊上原直彦(172)<話どぅ いいチトゥ>
週刊上原直彦(171)<薬罐・急須、そして・・・・・>
週刊上原直彦(170)<とーしんばい・みんちゃむなー>

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