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 週刊 上原直彦 「浮世真中」が本になりました!
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2004年 10月28日
連載 エッセイ
      「浮世真ん中」(157)

*<寸・尺・間>

 尺貫法とメートル法。
 長さ。1寸=3.03cm。1尺=30.3cm。1間=181.81cm。

 ♪車や3節ぬ楔<くさび>しどぅ 千里ぬ道ん走い巡る
   人や3節ぬ舌しどぅ大胴や 食い捨てぃ
 <くるまや みぶしぬ くさびしどぅ しんりぬみちん はいみぐる
   ひとぅや みぶしぬ したしどぅ うふどぅや ふぁいしてぃ>
 歌意=馬車、荷車は車輪の心棒に打ち込んだ3寸の木楔で固定してあるから、千里の道も往来することができる。しかるに人間は、己の3寸の舌で多弁を弄するが故に、あたら五体を食い捨てる。身を滅ぼすことがある。心せよ。
 八重山西表上原に伝わる教訓歌「でんさ節」の文句である。
 正規の定規がない場合、大人の手の中指の第1関節から第2関節の長さを<1寸>の目安にする。したがって「3節」は「3寸」ということになる。
 この「でんさ節」の文句を「物言えば唇寒し秋の空」とするか。「物言わぬは腹膨るる思いなり」とするか。「沈黙は金」と解釈するかは、その時どきによるだろう。

 「尺」を用いた言葉に「3尺舞い=さんじゃく もうい」がある。
 3尺四方のスペースで舞う芸のこと。舞台における舞踊ではなく、花街のお座敷や一般家庭の祝宴の座でなされる。江戸の花街には、座ぶとん一枚の上で踊る幇間芸があるそうな。沖縄では、多少心得のある素人芸、あるいは、役者衆のお座敷興芸として、ときたま、お目にかかったが、いまはもう「3尺舞い」をやれる粋人はいなくなった。いや、そんな粋な遊びのできる場がなくなったのかも知れない。
 沖縄演劇界の大御所故大宜味小太郎優は、気が向き、場が整えば「3尺舞い」を見せてくださった。それは、カチャーシー舞いの歌の代表曲「嘉手久=かでぃーくー」であったり、雑踊<ぞう うどぅい>の「かなーよー」であった。

 さらに「間=けん」を用いた沖縄ならではのスポーツ用語がある。曰く。
 「いっけん・まーたー=一間股」
 陸上競技のトラックやロードの走り方には、ストライド走法とピッチ走法があるが、「いっけん・まーたー」は、いわばスライド走法で、歩幅が1間=180cm余=あるのだ、あるいはそのように見えるダイナミックな走り方を表しているのである。100mや200mの世界的選手は皆「いっけん・まーたー」以上で、100mを一歩2mほど、50歩で駆け抜けるという。因みに、マラソンは「いっけん・まーたー」走法よりも、歩幅は小さく、スピードを重視したピッチ走法が適していると思われる。42.195kmを「いっけん・まーたー」で走っては、足腰にかかる負担が大きい上に、スタミナの消耗が著しいのではないか。

 信じようと信じまいと・・・・。
 高校時代の私は「いっけん・まーたー」で鳴らしていた。陸上部でもないのに、高校陸上の学校代表にかり出されたものだ。昭和30年秋の全島高校陸上競技会に出場。100mを13秒程で走り予選通過。決勝は6人走って6位であった。1位は、那覇商業高校の森山一成。彼の記録は、しばらく破られることはなかった。
 100m競技の選手は、花形になれた。注目を集めた。しかし、決勝に進出したにもかかわらず、私には「花形」の呼称はついてこなかった。それもそのはずで、私のは、ただ速いだけの「いっけん・まーたー」で、走り方が美的ではないのだ。悪さをして、石をもて追われるが如く。窃盗現場を目撃されて逃げる泥棒走法。「花形」とは、ほど遠いフォームだったのだ。

 いま、長さ、面積、体積、容積、質量は、すべてメートル法が主流になった。
 しかし、共通語にも地方語にも尺貫法は生きている。寸、尺、間、合、斗、斤、貫も大いに使って、会話を楽しみたいものではある。


「一間股」のころの筆者。


 次号は2004年11月4日発刊です!

2004年10月分
週刊上原直彦(157)<寸・尺・間>
週刊上原直彦(156)<学校の秋>
週刊上原直彦(155)<煙草とライター>
週刊上原直彦(154)<人生最良の日・トーカチ祝>

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