毎週 木曜日発行!!  平成13年 11月1日創刊
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 上原直彦
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8月29日
連載 エッセイ
      「浮世真ん中」(44)

*夢のあと・甲子園

2002年夏。
第84回夏の高校野球大会。全国49代表校の頂点に、高知県明徳義塾高校が立って、優勝旗は瀬戸大橋を渡り、よさこい節に迎えられた。
甲子園。さまざまな若いドラマの展開がある。今年も沖縄にとって忘れえぬ思い出を刻んだ。県代表は中部商業高校。抽選の結果、大会初日、しかも、開会式直後の第一試合、東東京代表帝京高校と対戦。中部商業は先攻。トップバッター池間直樹君レフト。ドラマはここから始まる。真っサラのピッチャーズマウンドに立って大会の初球を投げるのは、なんと名護高校野球部主将3年生仲宗根淳君。何故、彼が始球式投手に選ばれたか。それは、沖縄が自らの手で日本復帰を勝ち取ってから、今年で30年。その30年前の昭和42年<1972年>に、甲子園出場を果たしたのが名護高校だったからだ。日本高校野球連盟も粋なことをする。この大舞台で仲宗根君は、温めていた想いを実行した。
まず、真新しいボールを手にマウンドに立った彼は、おもむろに後ポケットに手を入れ、あるモノを取り出した。土だ。名護高校グラウンドの土だ。仲宗根君は、それをプレートのあたりに撒くと投球動作に入った。そして、力強い一球を帝京の笹沢捕手のミットに投げ込んだ。紅潮した表情でバットを振る中部商業池間君。沖縄球児が投げ沖縄球児がバットを振る。二度ないシーンだ。
こうして、14日間の甲子園大会は始まった。
マウンドに土を撒いた仲宗根君は、心の中に熱い想いがあった。
「いつの日か、名護高校ナインは甲子園に帰ってくるッ。待っててくれッ甲子園ッ」
このことの一球入魂だったのである。
昭和33年<1958年>首里高校ナインは、甲子園の土を持ち帰ったが、検疫法に触れるとして、記念の土は下船直前の海に投棄された。同じ土ではないがあの土は、形を変えて仲宗根君の手で甲子園に返されたのである。

甲子園大会は、各県のラジオ、テレビが中継する。それぞれ地元代表の試合となれば、贔屓の引き倒しもなんのその気合を入れて中継する。RBC琉球放送は、レポーターとして入社4年目の藤田直也アナウンサーを派遣した。藤田は小学校4年生のころ、当時、茶の間の人気者だったフジテレビの故逸見政孝アナウンサ−に魅せられ「よしッ、ボクも逸見さんのようなアナウンサーになろうッ」と決意。その夢を果たしたRBC期待の若手である。全国から約130人のアナウンサー、レポーターが集結する甲子園のプレスルーム。それぞれが自分の県代表が勝ち進み、一日でも長く甲子園にとどまって欲しいと願うのは人情。藤田も例外ではない。リキを入れてレポートを放送。報道の公正公平中立性を完全に無視して、中部商業の応援放送をしたことではあった。しかし、藤田の祈願むなしく、帝京に11対8で負けた。そうなると、藤田は即刻帰社しなければならない。残ると出張旅費がかさむからだ。プレスルームの他社の連中は「沖縄は、出場校が決まったもの全国一番乗りだったが、甲子園を去るのも一番退きだなッ。いやいや、ご苦労さんッ」と、心ない言葉をかけてくる。大会初日、第一試合で負けたのだから<仕方ない>と言えば仕方ない現実がそこにはあった。
「くやしかったですヨ。マジで涙がでました。しかし、ボクは諦めませんッ。春の選抜の沖縄尚学院高校の優勝、ベスト4入りの実績がある沖縄球児。始球式で投げた仲宗根君同様、いつの日かボクもアナウンサーとして、甲子園に最後まで残ってレポートしますよッ」
第84大会全出場校のネーム入り記念タオル一枚を持ってきての報告であった。藤田の熱っぽい報告を側で聞きながら、異常なまでの阪神タイガースファンのRBCiラジオ安仁屋聡制作部長は、ブツブツ言っている。
「高校球児が14日間も甲子園を占拠するから、わが阪神は死のロードに出て負けが込み、借金生活に入ったではないか」

かくて、高校球児の夏が終わり、甲子園の周辺には夾竹桃の花が咲き、赤とんぼが飛び交い、関西にも秋がやってくる。
独白=後は阪神タイガース、せめて、4位は確保してほしい。来年は沖縄県宜野座村に春のキャンプを張る阪神。ちばりよぉッ!トラッ!」
↑RBC期待の若手、藤田直也アナウンサー

 次号は2002年9月5日発刊です!

8月分
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